まほうつかいのむすめ

 私は、娘を3人授かった。なんとかそれぞれ幸せに生きていってほしいと願うあまり、それと気付かぬうちに子の運命を魔法使いの手に委ねることもあり得るのだろうか。
 チ・フィ・エンは、幼いとき、まほうつかいにさらわれて、彼を父と信じて育った。外界から隔絶された広大な城の中で何不自由なく過ごし、美しく賢い娘に成長する。ところが、父が不用意に与えた万巻の書物を読むことで、自分の出生に疑問を持ち始める。「わたしの母はどこにいるのですか?」愕然としながらも「おまえは昔、バラだった、魚だった、小鹿だった」と、誤魔化そうとするまほうつかい。考え抜いたむすめは「わたしは鳥だったのではありませんか」と父を挑発し、鳥となって城を脱出する。しかし、鳥でいられるのは一日だけ。高く険しい山やまを小さな翼で越えなければならないのに……。
 作者のバーバーさんは、ベトナムの子どもを養子として育てたという。アメリカの富は、ベトナムの子どもにとっては魔法も同然である。それだけに、子どもにとって何が幸せであるか、悩む日々であったことだろう。
 絵本の中にはおさまり切れないテーマを問い掛けているのかも知れませんが、日本に住んだこともある画家、カインの幻想的な東洋の美の鑑賞もできるので、一見の価値あります。

アントニア・バーバー 文 エロール・ル・カイン 絵 中川千尋 訳 ほるぷ出版 1,456円
(2000年 ’平成12年’ 11月27日 41回 杉原由美子)

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