海べのあさ

 「やったやった、復刊だ」。版元から送られてきたファックスを見て、思わず声に出ました。待ちに待った、という気持ちです。およそ10年ぶりの再会です。子どもが出会ってほしい年齢のとき、その絵本が休刊というのは、子どもの本屋としては、とても残念なことです。中でも、『海べのあさ』は、特別そうなのです。なぜなら……。
 ある朝、サリーは元気よく目が覚めたのですが、なにかが変です。なにが変かと言うと、歯が一本ぐらぐらしているのです。まあ、たいへん。でも、おかあさんはにこにこして、「それはサリーが大きい子になったしるし」と言ってくれました。「そうなのか!」その日、サリーが出会った人や動物は、ほんのちょっぴり、いつもと違って感じられるのでした。昨日だったら我慢できなかったかもしれないことも、我慢できたし。
 子どもがみんな経験する「生え変わり」の時を、温かく丁寧に描いた絵本です。それだけに、この絵本ほど、「読み時」が大事な絵本はありません。
 子どもの歯が最初に抜けた時は、その時の歯と気持ちをいっしょに取っておきたい気になります。まだほんの少ししか使っていない、白くてきれいな歯。そして、こんなに小さいのに、幼児期を終えなくてはならない子ども。うれしくてちょっぴりせつないような親の思いも、『海べのあさ』には込められていて、とてもうれしいのです。
 サリーが、鏡の前で歯をぐらぐらさせている場面を見て、「わたしもそうよ!」と、うれしそうに叫んでいた娘も、もう、高校3年生です。私にとって、子育てを助けてくれた思い出深い絵本の1冊です。

ロバート・マックロスキー 作 石井桃子 訳 岩波書店 1,700円  (2001年 ’平成13年’ 5月14日 50回 杉原由美子)

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