ビロードうさぎ

 「かわいがられたおもちゃは本物になる」という考え方を、どう思いますか? そんな難しいテーマを絵本にしたって無理がある。私は初め、そう思いました。きっと途中で白けてくるだろうな、ま、仕方ないな、と思っていました。でも、その予想はみごとに外れました。
 クリスマスプレゼントとしてぼうやのところへやってきたビロードのうさぎは、ぼうやが他のおもちゃに気をとられている間は、見向きもされませんでした。でもある晩、いつも抱いて寝る犬のおもちゃが見当たらなかったので、代わりにぼうやのベッドに持って来られます。もともと優しい気質のぼうやは、このおとなしいビロードのうさぎをとてもかわいがってくれます。ビロードがすりきれ、ひげが全部抜け落ちても、いつもいっしょでした。ところが、ぼうやは、しょう紅熱にかかって、海辺の町で静養することになります。するとお医者さんは、ずっとぼうやのふとんの中にいたビロードうさぎを「焼いてしまいなさい」と言うのです……。
 お話は淡々と進みます。それなのに深く心に染み入ってきます。惜しみなく愛情を注いだ者、注がれた者の幸福感が素直に受け入れられ、うれしいのです。
 たいへん美しい絵本です。あまりに美しかったので、私は読めもしないのに英語版を買って持っていました。このたび石井桃子さんの訳で出版されたので、ついに!読むことができました。 そして、見かけの美しさだけではない、この本の真価を知りました。出版を決めた、地方の版元さんに敬意を表します。

M・ウィリアムズ 文 W・ニコルソン 絵 石井桃子 訳 童話館出版 1,400円
(2002年 ’平成14年’ 7月29日 64回 杉原由美子)

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