川はながれる

 子どものころ、川のほとりで、「この川はどこから来たんだろう」とか、「この川について行ったらほんとに海へ行けるのかな」と思ったことはありませんでしたか? 見に行きたいけれど、その行程のはるかなることも分かっているから、結局、実際には空想の域を越えられないのです。私ももちろんそうでした。
 この小さな絵本の中には、1本の本の川が流れています。たったひとすじの岩山の雪解け水が、次第しだいに仲間を増やして大きくなって、ついには広大な海にたどり着きます。この本に出会ったとき、私は、字を全く読まずに絵だけながめました。そしてそれでもう、十分満足してしまいました。川の初めから終わりまでを見たいという、子どものころの夢が叶ったと思いました。
 中でも、川の中流、野原を描いたページに惹きつけられました。7歳くらいのころ、 川べりで摘み草をした日の記憶がまざまざとよみがえったからです。あの日のまぶしい日差しや空の色、鳥の声、地面の温み、そう、ヘビにも会ったっけ……。どうして私の好きな景色を知っているんだろう、と思えました。何分も同じページを眺めていました。
 後でじっくり文も読んでみると、単に風景が変わるというだけではない、生命不滅の思想とでもいうような、明るい希望のおまけ付きでした。

アン・ランド 文 ロジャンコフスキー 絵 掛川恭子 訳 岩波書店 800円
(2004年 ’平成16年’ 3月22日 87回 杉原由美子)

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