こめんぶく あわんぶく
お母さんが早くに亡くなって、こめんぶくは、すずめたちと仲良く遊びながら大きくなりました。やがて、新しいお母さんがやってきて、あわんぶくという妹が生まれます。さて、それからどうなるかは、ご想像の通りです。ほんとうに想像の通りにことは運んで、こめんぶくはしあわせになるのです。
この絵本は、新潟県で取材されたお話がもとになっているのですが、内容は、みなさんご存知のシンデレラそのものです。シンデレラは、分身としてガラスの靴の片一方を落としていきますが、こめんぶくは、漆塗りの下駄を落としていきます。下駄を頼りに、 落とし主の美しい娘を探すわけです。初めて読んだとき、何とかの泉のように「へえ~」と驚きました。
しかし、何度も読み返すうち、シンデレラとは違う要素がかなり見えてきます。シンデレラを助けるのは名付け親という、生まれたときからの後見人ですが、こめんぶくを助けるのは、こめんぶくが親切にしてあげたやまんばということになっています。小さいころから親しくしていたすずめも一役買っています。また、シンデレラはお姉さまたちに相当意地悪をされていますが、あわんぶくという妹娘はとくに意地悪ではありません。
つまり、こめんぶくは、自分自身の徳と知恵でもって運命を拓いたように思えるのです。そう思って絵をながめてみると、こめんぶくは美しさとともに、気品と意志力を感じさせる娘になっています。
「一番好きな絵本は?」との問いに、この絵本と答えた我が娘、願わくは、こめんぶくのようなりりしい(?)女性になってくれますように。
松谷みよ子 文 太田大八 絵 ほるぷ出版 1,523円 (2004年 ’平成16年’ 9月22日 93回 杉原由美子)