はるになったら
春になったからというわけではないのでしょうが、赤ちゃん誕生の便りが身のまわりでたて続きました。少子化が問題になっている折、心楽しい話題です。そう、とにかく大人にとってはね。
では、お兄ちゃんお姉ちゃんになった子どもにとってはどうなのでしょうか? 赤ちゃん誕生の当初は、お母さんと会えなかったり言葉を掛けてもらえなかったりして、気持ちが不安定になるに違いありません。それに、生まれたばかりの赤ちゃんは、ぐにゃぐにゃで泣き声ばかり大きくて、どちらかというと「かわいい」というより「ぶきみ」な存在であることも確かです。さて、子どもたちは、そんな弟や妹と自分をどうやって近づけていくのでしょう。
今回の絵本は、お姉ちゃんが小さな弟に語りかける形になっています。「はるになったら おはなをたくさんつんできて はなたばをつくってあげる」と始まって、女の子にとって想像できる限りのさまざまな楽しみを、弟に分け与えようとします。海に行けば貝殻を、映画に行けば歌を、パーティーに行けばケーキをおみやげに持ってきてあげると……。
そして最後のページでは、「わたしが おかあさんになったら あかちゃんをだっこさせてあげる こんなふうに」と、小さな弟をぎゅっと抱きしめるのです。弟のために、というよりは、自分の今あることを一生けんめい確認しているようにみえます。
同じ作者による「ねえさんといもうと」、「にいさんといもうと」という絵本もあります。こちらは、互いに少し大きくなった子どもが描かれています。上の子がよかれと思って世話を焼くのですが、下の子だっていつまでも赤ちゃんではありません。自立する応援をしてねという姿がほほえましく、崇高でさえあります。
中島みゆきの「誕生」という歌にもあるように、生まれるからには「WELCOME」と言われたいし、しつこいくらいにでも言い続けてあげたいのです。おめでとう、赤ちゃんたち。
シャーロット・ゾロトウ 文 ガース・ウィリアムズ 絵 おびかゆうこ 訳 徳間書店 1,470円
(2006年 ’平成18年’ 3月23日 109回 杉原由美子)