ラチとらいおん

 主人公のラチは弱虫な男の子。犬もこわいし暗やみもこわい。友だちもこわいので、いつも一人で絵本をみてばかり。そんなラチですが、夢をもっています。パイロットになりたいという夢です。でも、弱虫なパイロットなんているでしょうか。強そうならいおんの絵をながめては、ため息をつくラチです。
 「こんならいおんがいたらなあ。なにもこわいものなんかないのに」と。
 するとどうでしょう。ある朝目ざめたラチのそばに、小さな赤いらいおんがいるではありませんか。小さならいおんは言います。「こうみえてもぼくは強いんだ。きみも強くなりたいのなら、ぼくが強くしてやるよ」。そうして、ラチとらいおんの特訓が始まります。
 まずは体力づくりから。そして度胸の涵養も欠かせません。トレーニングが功を奏して、いつのまにか強くなったラチは、みんながおそれていたいじめっ子を追い払ってしまいます。ラチが小さな赤いらいおんにお礼を言おうとすると、らいおんの姿は既になく、置手紙が残されていて……。
 なんと潔いらいおんでしょう。なにごとにつけ、指導者とはかくありたいものです。私は、二女の中学時代の先生の言葉を思い出します。卒業の日、「うちの子は先生に力を引き出してもらった」と、感謝の意を伝えたつもりの私に、「子どもはだれでも自分の中に伸びる力を持っています」。にこりともせずに答えられました。子ども自身を信じなさいと、叱咤されたのです。
 ラチはどうして強くなったと思いますか。私は、ラチが夢をもっていたからだと思います。パイロットになりたいという夢を。そんな憧れを抱かせるように、大人たるもの、元気に仕事に励みましょう。

マレーク・ベロニカ 作 とくながやすもと 訳 福音館書店 1,050円
(2006年 ’平成18年’ 4月19日 110回 杉原由美子)

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