五助じいさんのキツネ
五助じいさんは、ひがね山で1人暮らしをしています。毎朝、水筒ならぬ湯タンポに水を入れて、それを背負って畑仕事に出かけます。少しばかり寂しいけれど、穏やかな毎日でした。そんなある日、1匹の子ギツネがどこからか迷い込んで来ます。
「ほい、コンコン、なにか食うかね」
子ギツネは怖がるふうもなく、じいさんの小屋で共に暮らすようになります。湯タンポを背負ったじいさんの後にくっついて、 畑にも通います。そうするうちに、じいさんにはキツネの、キツネにはじいさんの言葉がわかるようにさえなってくるのでした。日に日に人間くさくなってくるコンコンの様子に、じいさんは一抹の不安を覚えます。
とある月のよい晩方、じいさんの小屋のそばをキツネの行列が行きかかります。じいさんは、意を決してキツネの大将に声をかけます。
「何をしに行くんかね」
不意を突かれた大将は、思わす本当のことを・・・
「いや、なに、化け方の練習をな、ちょっと」
「何に化けるんかね」
「大きい声では言えないが、人間に、な」
それが、一人前のキツネになるための修行と察したじいさんは、コンコンを仲間に入れてくれるよう頼みます。練習に励んだ若いキツネたちは、人間の中でも「県庁のえらいさん」に、見事化けることができるようになります。けれどもコンコンだけは、何度化けても「湯タンポ」にしかなれなくて、仲間に笑われるのでした……。
そんなコンコンを見守り続けているのが五助じいさんです。そして、「湯タンポ」になれるキツネを必要としている人にコンコンは重宝がられて、以後幸せに暮らしました。ここへ至って、五助じいさんは、子どもの本来持っている資質と可能性をしっかり見据えていたものだと感心します。
ところで「県庁のえらいさん」に化けた仲間たちはどうなったのでしょうね・・・?
馬場のぼる 作 こぐま社 1,260円 (2006年 ’平成18年’ 11月22日 117回 杉原由美子)