かあさんのいす

 「かあさんは、ブルータイル食堂ではたらいています。ウェートレスをしています。」と、お話は始まります。小気味のいいスタートだと思います。これだけで十分、語り手である少女とそのお母さんの暮らしぶりが想像できます。先を読むのがつらいかな、と感じるなら、今、同じような境遇にあるのでしょう。
 食堂のウェートレスは、何時間も立ちっ放しで重いものを運び、お客さんには笑顔を絶やさず、真冬でも汗だくになって、そしてお給料は高くはありません。一番つらいのは、日曜日はほとんど休めないこと……。ため息をついて本を閉じたくなります。おまけに、この本の中のかあさんは、去年、火事で家を失っているのです。それ以前には夫も失くしているというのに。
 かあさんは、仕事から帰っても体を休ませるいすがないことを悲しく思って、一大決心をします。「小銭を貯めて、世界一のいすを買おう」と。食堂でもらってきた大きなびんの中に、毎日毎日小銭を落としていきます。おばあちゃんも協力してくれます。そして、「うそみたい。とうとういっぱいになったわ」と、当のかあさんが驚く日がきます。わたしとかあさんとおばあちゃんは、家具屋さんを4件もまわって、夢にまで見た「バラのもようのビロード」のいすを手にいれます。それは、3人がいっしょに座れるほど大きくてしっかりとしたいすでした。ぬくぬくとしたいすの手触りが幸福感そのものです。
 同じような境遇にあっても、かあさんのようにおおらかに、夢を持ち続けるかどうかで、いつのまにか人生は違ってくるのでしょうか。
 この絵本には続編として『ほんとにほんとにほしいもの』と『うたいましょうおどりましょう』の2冊があります。それぞれ少しずつ時間が経過しています。幼かった女の子が、いつしか、かあさんとおばあちゃんを思いやる温かい心を持つ少女に成長していく様子が、しみじみと描かれています。

ベラB.ウィリアムズ 作・絵 佐野洋子 訳 あかね書房 1,427円  (2007年 ’平成19年’ 4月12日 121回 杉原由美子)

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