ながいながい旅

 今から70年くらい前のこと、エストニアの海辺の小さな町に、1人の女の子が犬を連れてやってきました。面倒をみてくれていた大きな町のおばあちゃんが、戦争が始まって危ないからと、小さな町のもう1人のおばあちゃんのところへ女の子を預けたのです。
 小さな町は、女の子にとってはいいところでした。 本を読んだり絵をかいたりできる学校は大好きだし、友だちもたくさんできました。夏も冬も、昼も夜も、いっぱい遊びました。いつも犬といっしょでした。
 けれども、ある朝、犬が兵隊に撃ち殺されてしまいます。身の危険を感じた人々は、ひそかに国外脱出を図ります。 年を取って船旅には耐えられないと思ったおばあちゃんは、女の子だけを漁船に乗せて送り出します。バルト海に出た小さな船は嵐にもまれて航行不能となり、いく日も波間をただよいました。そこへ大きな船影があらわれ、とうとう敵の標的になるのかとみなが覚悟を決めたのです。が、幸い、それはスウェーデンの救助船でした。女の子は、ストックホルムの病院に保護され、おとうさんの妹にあたる女性画家に引き取られることになります。女の子は、平和で豊かな町でその才能を伸ばし、自分も画家として自立していきます。
 これは、前回ご紹介した『ぼくねむくないよ』の画家、イロン・ヴィークランドさんの子どものころを描いた絵本です。これを読むと彼女が、両親の離婚、戦争、難民生活、病気、といった過酷な運命を真っ向から受け止めてきたことがわかります。
 勇敢だったイロンが最も苦しんだのは、おばさんに見つけてもらう直前、ひとりぼっちで入院していたときでした。「病気のせいではなく、さびしさで死んでしまうと思った」と回想しています。人生において、本当の勇気が試されるのは、 「死ぬほどのさびしさ」を感じたときなのかもしれません。
 ぎりぎりのところで自分を救ってくれるものは何だろう、そんな思いがあるから、人は芸術というものを頼りにしているのです。

イロン・ヴィークランド 絵 ローセ・ラーゲルクランツ 文 石井登志子 訳 岩波書店 1,995円
(2008年 ’平成20年’ 6月18日 134回 杉原由美子)

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