トムテ
「トムテ」は、北欧に伝わる小人族の一種です。日本の「ざしきわらし」に似た役割をもっています。つまり、目には見えないけれど確かに家の中にいて、大切にしていれば幸福をもたらしてくれる、という存在。
この絵本のトムテは、おじいさんの姿をしています。雪が降りつもった真夜中の農場を、てくてく歩いて見回っています。 何も変わったことが起きていないか、家畜たちはおとなしく眠っているか、仲良しの番犬とはあいさつをかわし、家の中の様子も見にいきます。
トムテがとくに気を配るのは子ども部屋。トムテは子どもが大好きなのです。ふしぎなことに、トムテは子どもたちの親や、そのまた親のことも知っています。ところがトムテにしてみるとふしぎなのは人間のほうです。
「わしには、どうもよくわからん」とトムテはつぶやきます。
「人はどこから来るのだろう。そしてどこへ行ってしまうのだろう……」
トムテは、見かけによらず突き詰めてものごとを考えるたちのようです。ざしきわらしと話ができたとして、同じように問われたら、何と答えたらいいのでしょう。
我が家の子どもたちは、自分たちの生まれ育った家の座敷と仏間が怖いと言います。昼間はいいけど、夜そこで寝るのは絶対いやだと言います。「何かいるみたい」だから。きっとその通りなのでしょう。そして、その「何か」は、子どもたちのことが大好きで、いつも見守ってくれているのでしょう。自分が生まれるずっと前からいる「何か」、自分がいなくなっても存在し続ける「何か」。
スウェーデンのトムテなら怖くないですよ。スウェーデンでは、クリスマスに贈り物を運ぶのは、このトムテなのですから。
リードベリ 詩 ウィーベリ 絵 山内清子 訳 偕成社 1,260円 (2008年 ’平成20年’ 12月17日 140回 杉原由美子)