ローザ

 今回の絵本には、ごく普通の女性の「ノー」が、社会を変える力になったいきさつが描かれています。
 事件は、1955年12月1日、アラバマ州モンゴメリーで起きました。黒人女性のローザ・パークスは、勤め先のデパートでの仕事を終え、バスで帰宅途中でした。当時、バスの座席は、黒人用、白人用に分けられ、その中間の場所は、だれが座ってもいいことになっていました。ローザは中間の席に座っていました。
 空いていた車内が次第に混み合ってきて、黒人たちは次々と白人に席を譲りました。が、ローザはそのまま座っていました。すると、運転手が近づいてきて「席を譲らないと警察を呼ぶぞ」とローザを脅したのです。
 ローザの答は「ノー」。すると驚いたことに、ローザは本当に逮捕されてしまったのです。
 働き者で穏やかな人柄のローザが逮捕されたと聞いて、まず行動を起こしたのは友人の女性たちでした。彼女らの立てた作戦は、「バスに乗らない」運動です。雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も。運動は町中に広まり、ニュースは全国に流れ、その非暴力の戦いに感銘を受けた国中の人々が衣類やお金を送ってくれました。
 そして、逮捕の日からほぼ1年後、バスの席を人種によって分けることは違憲だとの最高裁判決を勝ち取りました。
 奇しくもこの絵本の出版と同時期に公開された映画があります。時は1948年、ジョージア州の片田舎のバス停から、盲目の青年が西海岸のシアトル行きのバスに乗り込むところから始まります。
 彼は、後ろの方の黒人席に座っていました。十数年後、ジャズピアニストとして成功して故郷に帰った青年は、自分の出演するコンサート会場が人種隔離施設と知って、公演をキャンセルしてしまいます。
 主催者側は怒って訴訟を起こし、ジョージア州は、彼を永久追放処分にします。 彼の出生地だというのに! 青年の名は、レイ・チャールズ。彼がジョージア州に帰れたのは、実に1979年のことでした。
 過去のできごとですが、絵本も映画も作品としてはごく新しいものです。ローザやレイが社会に示した勇気は、今もアメリカの人びとの誇りなのです。

ニッキ・ジョヴァンニ 文 ブライアン・コリアー 絵 さくまゆみこ 訳 光村教育図書 1,785円
(2009年 ’平成21年’ 3月18日 142回 杉原由美子)

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