詩ふたつ
この本には、詩人、長田弘の「花を持って、会いにゆく」「人生は森のなかの一日」の2編の詩が収められています。このコーナーで、本格的な詩集をご紹介するのは初めてです。なぜそういうことになったかというと、この詩集が、ことばだけでなく、クリムトの風景画とともに構成されて絵本のようになっているからです。
クリムトといえば、豪奢で妖艶な女性の肖像画を多く遺した画家。しかし、本書に使われているのは、そんなイメージからはほど遠い、花や樹木や湖の絵ばかり。私は、最初はクリムトの作品と分かりませんでした。
詩を読み、絵を眺める。もう一度読み、絵を眺める。次はちょっと声を出して読んでみる、そして絵を……。
読むうちに、詩は、亡くなった妻を偲ぶ気持ちから生み出されたものだということが分かってきます。どうしてこんなに悲しくて、さびしくて、むなしい思いをしなければならないのか。受け入れ難い悲しみと、 懸命に闘っているなと分かってきます。それも、ことばの力で。詩人は、もっとも親しい友である、ことばに助けられて生きる力を取り戻しているのです。
そして、時代の最先端を生きる運命を担い、決して平穏とは言えない人生を送ったクリムトの思いがけないほど静かで懐かしい風景画の数々が、ことばの世界をさらに印象的なものにしてくれます。
子どもたちは、長田弘もクリムトもまだ知らないでしょう。もちろん、多くの子は、最も大切な人を失った悲しみもまだ経験していません。けれども、もしもこの詩の絵本が身近にあったら、分からないなりにもだれかに読んでもらったら、生きていることへの喜ばしさがさらに増し、同時にほんのちょっぴり、悲しみへの抗体がつくられていくと思います。
長田弘 詩 グスタフ・クリムト 画 クレヨンハウス 2,940円 (2010年 ’平成22年’ 8月25日 158回 杉原由美子)