それでも笑みを

 私にとって写真家、大石芳野さんは、憧れの女性の1人でした。命がけでベトナム戦争を取材していた男性カメラマンに混じって、大和なでしこと形容したいような優しい面ざしの大石さんも活躍されていました。
 1966年、まだ学生のときにベトナムを訪れた大石さんは、不穏な空気に怯える現地の人々に同情し、何か力になれることはないかと申し出ました。それに対して「ベトナムのことはベトナム人に任せてください。あなたは日本の平和を大事にしてほしい。それが私たちベトナムを助けることにつながるのです」と言われ、大きな衝撃を受けたそうです。
 それ以来、大石さんはアジアを中心に、名もない人々、とりわけ女性や子どもの姿を撮り続けてきました。 この写真集でも、35の国や地域に暮らす人々の素顔をとらえています。
 戦争は終わっているのに、枯葉剤の影響で四肢に障害を持って生まれたベトナムの赤ちゃん。水汲みに行って地雷を踏み、片足を失ったカンボジアの女性。自分は学校へ行くのを我慢して弟や妹の世話をするネパールの少女。目の前で父親を撃ち殺されたコソボの少年……。大石さんのカメラは、原発事故後のチェルノブイリや、大津波に見舞われたインドネシアのアチェにも向けられています。
 大石さんの願いは、これらの人々と私たちの心がつながることです。それはまさしく、東北地方で悲しみにくれている人々と私たちの関係でもあります。何をしてあげられるわけではなくても、気持ちをわかってあげようとすることはできます。いっしょに泣くことはできます。
 困難な状況に置かれている人々を撮って、あえて「それでも笑みを」というタイトルにしたのは、大石さんが、人間の持っている可能性を信じているからです。戦争であれ天災であれ、二度と同じ苦しみは繰り返さないと誓って、強く生きていくことはできるからです。

大石芳野 写真・文 清流出版 2,940円  (2011年 ’平成23年’ 6月1日 166回 杉原由美子)

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