南の島で

 深いマリンブルーの表紙にひかれました。不安げに上空に目をやる男の子、その肩に手を置く女性は、大きな瞳を見開き、凛とした視線をこちらに向けています。「私はだいじょうぶ。きっとこの子もね」そう言っているようにも思えます。その自信はどこから?という興味を持ってページを開きました。
 主人公はワタルくんという男の子です。そしてかたわらの女性は、ももさん。ワタルくんのお父さんの妹です。ももさんは、海岸の漂流物で工芸品を創作しながら、南の島で1人暮らしをしている人です。ある年のこと、ワタルくんはももさんの家でひと夏を過ごすことになります。
 泳ぎもできない都会っ子のワタルくんが、叔母さんとはいえ、顔も覚えていなかった人のところへ預けられたのです。いったいそこで楽しい時間を過ごすことができるものでしょうか。血縁といっても初対面のおじいさんのところに置き去りにされた、アルプスの少女ハイジのようです。ハイジは持ち前のおおらかさで周りの雰囲気をなごませ、愛情をいっぱい注がれるようになっていきますが、ワタルくんは内気そうですし……。
 ももさんは、毎日一度は海へ行き、創作の材料を拾ってきます。食事の用意や洗濯にも手を抜くことなく、ギターをつまびき自作の歌も披露してくれます。何事にも真剣に、けれども決して無理をせず、ももさんが自然に身につけてきた生活スタイルなのでしょう。また、文章には表れませんが、ももさんはたいへんおしゃれで、何種類ものサマードレスや水着を着替えて登場します。ももさんの美意識と自立心を反映しています。信頼して子どもを預けたワタルくんのお父さんの気持ちがわかってきます。
 最終ページ、そこには、成長してお父さんになったワタルくんが描かれています。ももさんとの南の島暮らしで力がついたというのか、力が抜けたといったほうがいいのか、家族と共におだやかな海面にのびのびと寝そべって、自然と一体になっています。
 子どもたちには、どこにいようと、誰といようと、実りある夏休みを過ごし、生きる力をつけてほしいと切に思います。

石津ちひろ 文 原マスミ 絵 偕成社 1,260円  (2011年 ’平成23年’ 8月24日 169回 杉原由美子)

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