エイモスさんが かぜを ひくと

 エイモスさんは動物園に勤めています。勤続40年といったところでしょうか、社会人としてはそろそろリタイアの日も近そうです。いえ、そうではなくて、むしろ、退職後の再任用で勤めているのかもしれません。以前ここの園長だったのかも。そう、そうとなればこのお話はとても分かりやすくなります。なぜなら、エイモスさんは、動物園で、動物たちと遊んでいるからです。
 ゾウとは、チェスをして遊びます。ゾウは慎重なので、なかなか駒を動かそうとしません。エイモスさんは、そんなゾウのやり方にちっとも文句を言わないで、じっくりとゲームに付き合います。
 カメとは、かけっこをします。カメの鍛錬のたまものなのか、エイモスさんがだいぶ年をとったせいなのか、 この勝負はいつもカメの勝ちです。
 ペンギンとは、「お話」します。ただし、しゃべらないで、耳を傾けているだけのおしゃべりです。
 サイとは……こんなふうに説明をしていると日が暮れてしまいますね。絵本のほうがよっぽど簡潔に物語っています。
 動物たちとエイモスさんはこうして毎日楽しく過ごしていたのに、ある日、エイモスさんは動物園に出勤しませんでした。 エイモスさんはかぜをひいて、仕事をお休みしたのです。
 エイモスさんに会いたい動物たちは、動物園を抜け出し、エイモスさんがいつも通勤に使っているバスに乗り込んで、エイモスさんのうちまでお見舞いにやって来ます。そして、いつものようにエイモスさんと遊びます。でも、ちょっとだけ違っていました。チェスの駒をゆっくり動かすのはエイモスさんのほうで、カメはかけっこではなくかくれんぼをしました。エイモスさんはとても満足そうでした……。
 この絵本を教えてくれたのは末娘です。取り寄せて読んでみたら、なんともほほえましく、また、せつない思いでいっぱいになりました。末娘には、同じ干支のおじいちゃんがいます。72歳違いです。畑に出て野菜や花を育て、チェスならぬ囲碁が好きで、囲碁の相手にパソコンも操る元気者です。
 末娘には、エイモスさんとおじいちゃんは重なっていないかもしれません。でも、私は、娘たちがみな幼かったころから、お年寄りを描いた本を読むことを避けていました。おじいちゃんやおばあちゃんが、娘たちをとてもかわいがってくれたからです。老いることや、その先にやってくる日のことを、考えさせたくなかったのです。
 「あの本、なんか、すごくいいが~」と無邪気に推薦してくれた末娘は、先月のおじいちゃんの90歳の誕生日に、ちらし寿司を作ってくれました。楽しい思い出を作ってくれる娘たちに感謝、です。

フィリップ・C・ステッド 文 エリン・E・ステッド 絵 青山南 訳 光村教育図書 1,470円
(2011年 ’平成23年’ 9月21日 170回 杉原由美子)

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