くうき

「ぼくの 胸の中に いま 入ってきたのは いままで ママの胸の中にいた空気 そしてぼくが いま吐いた空気は  もう パパの胸の中に 入っていく」
 あっと息をのむ書き出しです。「空気」という、目には見えず音もなく、 味も香りもない「もの」が主人公の詩の始まりです。そんな「もの」でいったい何を伝えられるのか。そんな「もの」が何を訴えてきたというのか。
 まどさんは仙人のように、ことばで人の心を操ります。さっきまで気にも留めていなかった道端の雑草や鳥や虫、果ては石っころまでが、生き物のようにメッセージを発信してきます。まどさんの詩に出会うことで、私たちの心に受信機能がセットされるのです。漬物の重石には「いつもご苦労様」と声を掛けたくなるし、 一片の花びらみたいになってしまった石けんには「こんなになるまで働いてくれたんだねえ」と、ねぎらいたくなります。しかしながら、「空気」には何と応えたらいいのやら……。
 「同じ家に住んでおれば いや 同じ国に住んでおれば いやいや 同じ地球に住んでおれば いつかは  同じ空気が 入れかわるのだ」
 と、読者は一気に青くて丸い地球をながめる位置へと引き上げられます。そうか、ぼくと、ママとパパどころじゃなく、地球上のすべての生き物は「空気」を共有しているのか。だんだんと、そんな偉大な「空気」様の言い分を聞かなくちゃ、という気持ちになってきます。
 まどさんの詩は続きます。とても分かりやすいことばで、私たちを大きな世界に導いてくれます。幼い人たちにも聞かせたいという意図を持って絵本化されたのでしょう。ささめやゆきさんの絵はあどけなく美しく、イメージを無限に拡げられる開放感があります。
 この絵本を読んでもらった小さい人たちは、「自分も描く」と言って、この詩に絵を描き足してくれるのではないでしょうか。そうやって子どもたちの心に撒かれた、まどさんの言葉の種が、生涯を通して幸せの種になっていくことを願っています。

まど・みちお 詩 ささめやゆき 絵 理論社 1,680円
(2011年 ’平成23年’ 10月19日 171回 杉原由美子)

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