しずくのぼうけん
ここはポーランドの片田舎。おばさんが手に提げていたバケツから、ぴしゃんとはねて飛び出したしずく。さあ、しずくのぼうけんの始まりです。
初めはきらきら美しかったしずくも、外で遊べばどろんこに。きれい好きのしずくはがっかり。 困り果てているうちに何だかだんだん体が軽くなり、 上へ上へと上っていくみたい。空では雲の中で快適に過ごしていたと思ったら、こんどはだんだん重くなり、雨粒になって下へ下へと落ちていく。 落ちたところは岩の割れ目。閉じ込められて、もう遊べなくなるのかな、と思ったら……。
水は、ご存知の通り、私たちの目の前で液体、気体、固体に変身してくれます。この絵本では、この不思議で愉快な物質の性質をたいへんうまく表現しています。一滴の水が、季節や場所によって、さまざまに変化をとげる様子を、友だちの話を聞くような調子で学ぶことができます。
優れた科学絵本であるだけでなく、親しみやすい漫画ふうの絵も魅力的です。画家のブテンコさんは、しずくシリーズの小型絵本も4冊描いていて、こちらは環境にやさしい生活への手引き書としても人気があります。
水に不自由しない土地に生まれ育ったことを有り難く思っています。先日、私の生まれた地域で採取したという水が美味しいと思って、東京に住む次女に送ろうとしました。すると、なぜか不機嫌になった長女。訳を尋ねると、「その水を販売している大手メーカーは、水資源に乏しい某国で取水権を押さえた上で、真水より安い価格で自社の清涼飲料水を販売している。だから私はこのメーカーの飲み物は買いたくない」そうで。なんと困ったことでしょう。水は今や、金にも姿を変えるのでしょうか。
マリア・テルリコフスカ 作 ボフダン・ブテンコ 絵 内田莉莎子 訳 福音館書店 945円
(2012年 ’平成24年’ 7月25日 179回 杉原由美子)