せかいいち うつくしい ぼくの村

 今回は、アフガニスタンの農村を舞台にした絵本です。
 パグマン村のヤモの家のまわりにはたくさんの果物の木があって、収穫した実を町の市場に運んで売ります。ロバの背に山のように積んで、てくてく歩いて行くのです。今年は兄さんが戦争に行ってしまったので、まだ小さいヤモがお父さんの助手をつとめることになりました。
 ヤモが引き受けたのはサクランボ。初めは大きな声も出せず、なかなか売れません。それでも、「パグマンのサクランボかい?なつかしいなあ」と喜んで買ってくれる人も現れて、お昼には完売してしまいました。
 茶店でご飯も食べたし、お父さんは儲けたお金で、1頭の子ヒツジも買ってくれました。おまけに、 ヤモに名前を付けさせてくれたのです。ヤモは、真っ白なかわいい子ヒツジに「バハール」という名を付けました。 「春」という意味です。
 柔らかな絵、穏やかな文章、日本とそう変わらないようにも見える人や風景。
 幸せを絵に描いたらこうなる、と言いたいくらいの絵本です。それでも、たった1つ「戦争に行った兄さん」という不安材料から逃れることはできないのです。最終ページには、次のような文字だけが印刷されています。

「この年の冬、村は戦争で破壊され、今はもうありません。」

 最初に読んだ時、あまりにも残酷で、いたたまれない気持ちになりました。それが現実なんだよ、と自分に言い聞かせながらも、子どもたちに読んでやることができませんでした。それが、今になってなぜこの場にと問われたら、「戦争で村がなくなってしまうなんて、どこの国にもあってはいけない」と強く思うからです。アフガニスタンを旅して、多くの友だちを得たという画家の小林豊さんの願いを伝えたいと思うからです。
 ヤモ君の村の絵本は全部で3冊出ています。うつくしい村がよみがえるまで、見守りたいと思います。

小林豊 作 ポプラ社 1,260円  (2013年 ’平成25年’ 6月19日 189回 杉原由美子)

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