福島FUKUSHIMA土と生きる
2年前、この欄で、大石芳野さんの写真集『それでも笑みを』をご紹介しました。それは、 戦争や大災害の犠牲となった世界各地の子どもたちが見せてくれた健気な笑顔を1冊にまとめた写真集でした。東日本大震災の直後、 たくさんの被災者の報道写真に接してつらい気持ちでいた時にこの写真集に出会い、悲しみを抱えながらも前に進もうとする希望を表現している本として、ご紹介しました。
掲載された紙面を版元に送っておきました。著者がご存命の場合はたいていそうするのですが、何の反応もないこともよくあります。しかし、大石さんは、2カ月くらいたってから、直筆の手紙をFAXで送って下さったのです。「福島を往復する毎日でしたが、明日から久しぶりに沖縄へ行きます」と簡潔だけれど思いやりのこもった文章がつづられていました。私は感激してFAXの紙を持って「奇跡だ、奇跡だ」と叫びながら店の中を歩き回りました。たいてい店には私1人しかいないので、 とにかくそうするほかなかったのです。
今回ご紹介する本には、まさに、そのころ撮影された写真が載っているのです。お忙しくされているときに手を煩わせてしまったのだと、今更ながら身の縮む思いです。大石さんは、その後も何度も福島に足を運び、撮影と、出来上がった写真を届けてまた撮影、を繰り返してこの本をまとめられました。その間には、亡くなってしまったお年寄り、自死を選んだ農場経営者、また、赤ちゃんの誕生もありました。
大石さんが、福島の人たちと信頼関係を結びながら撮影されていることは、表紙の写真1枚からでも察することができます。表紙の坊やは悠真くん、2歳7か月。「サワガニがとれたよー」と叫びながら大石さんに駆け寄って来た瞬間を撮ったそうです。ちなみに、いっしょに写っているのは悠真くんの「ひいおばあちゃん」と妹の葵ちゃん(6か月)です。
今月4日、金沢市に講演に見えた大石さんにお会いできました。防護服もつけずに原発から3㌔まで近づいての取材と聞いて、会場はざわめきました。想像していた通りの、勇気と優しさにあふれた素敵な女性でした。どうか、お体を大切に、長くご活躍ください。
大石芳野 写真・文 藤原書店 3,990円 (2013年 ’平成25年’ 8月21日 191回 杉原由美子)