たいようもつきも フランチェスコのうた

 聞くも恐ろしいヘイトスピーチ。もしも、これの対義語があるとしたら?今回ご紹介する本が、まさにそれ、です。
 この本の中では、太陽も月も、空も大地も火も水も、感謝の対象となって褒め称えられています。富める者貧しき者、健やかなる者病める者、老いも若きも。それどころか、動物や植物も賛美されます。なぜなら、みな神様がおつくりになったものだから。人種や、国籍の違いなど、全然問題外。
 私がいちばん好きなのは、「この世界には、憎しみや戦争がありますが、神様、平和のために働く勇気ある人たちを与えてくださり、感謝します」というところです。争いを引き起こしたり、それに加担するのではなく、平和を守るための勇気と忍耐こそが尊い、子どものころから、このような信念を耳にしていたら、ヘイトスピーチに参加したり賛同したりする人間には育たないと思います。
 この絵本に使われている詩は、12世紀末に北部イタリアに生まれたフランチェスコが作ったものです。フランチェスコは裕福な商家に生まれ享楽的な少年時代を過ごしましたが、政治や宗教上の戦争にまき込まれた後は、一転して無私無欲の修道士となって、教会の修復工事や布教活動、貧窮者の援助に生涯を捧げました。死期の近いことを悟った1224年、この詩を母語であるウンブリア方言で書き遺しました。賛美歌にもなっている有名な詩ということですが、原文で読むことはまず無理です。これを英語に翻訳したのはキャサリン・パターソンです。傷つき易い家族関係を真摯に温かく描く児童文学者です。 彼女はパメラ・ドルトンの絵の力で、英語訳を完成できたと言っています。それは、繊細な切り絵に彩色を施すという気の遠くなるような技法で描かれたものです。
 私は昨年秋、銀座の教文館に行ったとき、この切り絵の原画展に遭遇しました。この絵本の出版に先行してのプレミアイベントだったわけです。そのときはフランチェスコという人もその人の詩も知らずに、人間技とは思えない精緻な切り込みの中の、子どもたちのあどけない表情が楽しくて、夢中で眺めていました。
 めでたく日本語訳が出ましたので、1冊手元に確保しました。近いうちに、いっしょに読んでくれる子どもが現れることを願っています。

キャサリン・パターソン 文 パメラ・ドルトン 絵 藤本朝巳 訳 日本キリスト教団出版局 1,575円
(2013年 ’平成25年’ 10月16日 193回 杉原由美子) 

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