ざっそうの名前
子どものころ、通学路を外れて田んぼ道をたどって帰ったことがよくありました。花を摘みたかったのです。車が行き交う道路の脇にも植物はたくましく育っているのですが、 ほこりにまみれ、汚れているのでいやなのでした。
田んぼ道には小川も流れていて、水辺の好きな花にも出会うことができました。「ワスレナグサ」はその筆頭です。うす水色のごく小さい花たちが群れになって咲いたところは、 さながらレースのふち飾りです。景色を摘み取ることはできないので、手に持てるかぎり摘んで急いで家に帰りました。
今は田んぼの区画整理が進んで畦は細いコンクリートに、小川は必要なときだけ通水する用水路になってしまい、もう、のどかな花摘みはできなくなってしまいました。
でも草花は、私たちの近くで元気に生きています。特にざっそうは。今回の絵本も、それを教えてくれます。登場するのは、ヒメジョオンや、ネコジャラシ、ドクダミにオオバコ……。 ね、見覚えのある草ばかりでしょう。どんなだったか忘れていてもだいじょうぶ、絵を一目見たら実物を思い出せます。太郎くんがおじいちゃんの家の周りで見つけた、という設定で、 約30種類が紹介されています。
作者の長尾玲子さんは、刺繍絵で、ざっそうと一括りにされるこれらの草花を表現しました。花壇に咲く花々と違って、 身の丈が小さかったり花が地味だったりするざっそうの個性を捉えるのに、ご苦労されたのではないでしょうか。その成果をたたえるべく、思わず指でなぞって凹凸を確かめたくなるほど、 柔らかくて美しい印刷に仕上がっています。
だいじに飾っておきたい本でもありますが、外へ持ち出しての実地検証もおすすめ。見つけた草を摘んできてスケッチしたり押し花にしたり、夏休みの宿題対策にいかがでしょう。
長尾 玲子作 福書店 1,320円 (2014年 ’平成26年’ 7月16日 201回 杉原由美子)