どうぞのいす
この絵本は、この季節になるとたまらなく懐かしくなって、どうしても読みたくなる1冊です。
うさぎのおじさんはもの作りが大好き。暇さえあれば何か作っています。今日こしらえたのは小さな木のいす。おじさんは、丘の上の大きな木の下にそのいすを運んで、 看板も立てておきました。「どうぞのいす」と書いて。
さあ、それからです。もし、一番初めに通りかかったのが私だったとしたら、私は迷うことなくそのいすに腰かけて、「あー、らくらく」と居眠りを始めて、 あっと気がついたときにはとっくに日も暮れていたというつまらない結末になっていたでしょう。
けれども、通りかかったのは、ろばさんでした。ろばさんもくたびれていたのですが、幸か不幸か、ろばさんにとってそのいすは小さすぎました。ろばさんは、 背負っていたかごをいすの上に乗せておいて、自分は大きな木にもたれて、昼寝を始めたのでした。
次に通りかかったのはくまさんです。くまさんは「どうぞのいす」に乗せてあるかごに気がつきました。かごの中にはおいしそうなどんぐりがいっぱい入っていました。 「どうぞならばいただきましょう」と、くまさんは大喜びで中のどんぐりを全部食べて行ってしまいました。あらら。
そこへ登場するのはきつねさん。きつねさんも「どうぞのいす」に乗せてあるかごに気がつきました。かごの中には、だれかが入れたらしいハチミツの大びんが1本。 「まあ、ごちそうさま・・・」
というわけで、「どうぞのいす」は、本来の目的ではない仕事を引き受けた形で、つぎつぎに現れる動物たちを喜ばせることになります。
秋は、収穫の季節であり、冬の到来を間近に感じる時期でもあります。この絵本に出てくるような、親切で思いやりのある仲間たちとなら、厳しい冬もきっと乗り越えられるでしょう。
うさぎのおじさんがテーブルを作る、続編もありますよ。
香山美子 作 柿本幸造 絵 ひさかたチャイルド 1,080円 (2014年 ’平成26年’ 11月19日 205回 杉原由美子)