ジャングルの王さま
ウータンは、仲間たちと南の島のジャングルでのんびり暮らしています。手を伸ばせばいつでも果物を採って食べられるし、雨が降ったら葉っぱのかげに隠れていればいいし。中でも、ジャングルの真ん中にある「王さま」と呼ばれる木には、とびきり美味しい実がたわわに実るのです。
それは、樹齢千年を超えるであろう巨木でした。「王さま」の木に集まってみんなでおしゃべりしたり、 長老さんから知識を伝授してもらったりするのも楽しみです。ウータンにも、友だちのポコやビルにも、その穏やかな暮らしは永遠に続くと思われました。
ところが、ある朝突然、ジャングルからたくさんの木が消えたのです。そこを寝ぐらにしていた鳥やりすたちも、もろともに。 次の日にはさらに多くの木が消えてなくなっていました。いったいなぜ ?
そしてある晩、とうとうウータンの寝ていた木にも異変が起きます。謎のビームを浴びて、木がどんどん小さくなっていくのです。間一髪、 木から飛び降りたウータンは、木を縮小させて抜き取っていく、異星人を目撃したのでした。彼らが、ジャングルの木を奪い取っていたのです。 このままでは、ジャングルも仲間も失われてしまう。しかし、ウータンにできることはあるのでしょうか…。
工藤ノリコさんは、どちらかというと、おとぼけた画風の作家さんです。どの本にも、まんじゅう顔にタラコくちびる、というキャラクターが登場します。 なので、つい油断して気楽に読んでしまいます。しかし、今回はお気楽では済まされませんでした。ご本人も「今の私のすべてを注ぎこみました」 とツィートしておられますが、本当に力作であると思います。
それは、工藤さんの、熱帯雨林とそこに棲む生き物たちへの愛情のためです。商業作物を増産するために、天然の熱帯雨林が焼き払われて、 動物たち、とくに繁殖に時間のかかるオランウータンが絶滅の危機に瀕しているのです。
大好きなオランウータンのためにできることはないかと、 工藤さんは、ボルネオ島のジャングルで、ヒルに血を吸われながらの宿泊学習も体験、5年以上の歳月をかけてこの1冊を作りました。 仲間を助けようと大活躍するけなげなウータンは、工藤さん自身の姿でもあるのです。ぜひ、ご一読ください。
工藤ノリコ 作 偕成社 1,512円 (2014年 ’平成26年’ 12月17日 206回 杉原由美子)