チキン・サンデー

 児童文学作家の松谷みよ子さんが亡くなられました。松谷さんは、赤ちゃん絵本から反戦文学まで、幅広いテーマの作品を遺されました。
 私は、子ども時代にそれらの作品に出会うには遅すぎた年代かと思いますが、大人になって読んだにもかかわらず、強い衝撃を受けた本に『屋根裏部屋の秘密』があります。 この本のテーマは、七三一石井部隊なのです。つい最近、某有名大学が、この部隊に関連する展示品を学内から取り払ってしまったというニュースを読みましたが、 展示品を隠したところで、歴史的事実を抹消できるものではありません。それは、今回ご紹介する絵本に登場する帽子屋のおじいさんの腕の傷跡と同じです。
 カリフォルニアに住むパトリシアは、近所のスチュワートとウィンストンの兄弟と大の仲良しです。彼らはアフリカ系だし、パトリシアはロシア系のアメリカ人ですが、 兄弟のおばあちゃんのユーラさんはみんなを同じように大切にしてくれて、教会へもいっしょに行きます。そして、教会から帰って囲む夕飯のテーブルには決まって、 フライドチキンをたっぷり作ってくれるのでした。
 イースターが近づいたある日曜日、いつもの食卓についたユーラおばあちゃんは、「コジンスキーさんのお店のイースター用の帽子、 あんなきれいなのはどこにもないねえ」と夢見るように言うのでした。子どもたちも気づいていました。教会からの帰り道、いっしょにながめていた帽子だからです。
 おばあちゃんに帽子をプレゼントしたい子どもたちは、ためてあるお小遣いを数えてみるのですが、とても足りません。 足りない分は働いて払わせてもらおうとお店まで来たとき、どこかの悪童たちの起こした騒ぎに巻き込まれ、居合わせた3人が犯人と決め付けられてしまいます。 絶体絶命の窮地にあって、パトリシアは彼女らしいアイデアを思いつきます。イースターの卵を作ってコジンスキーさんに届けようというのです…。
 作品の中には書いてありませんが、コジンスキーさんは東欧生まれのユダヤ人なのです。作者のポラッコさんは、陰気で気難しい帽子屋さんと心を通わせたとき、 その腕に刻み付けられた、消すことのできない数字の羅列の意味も教えてもらったのでしょう。そして、絵本の中に描き込むことで、 世界中の読者がその驚きと悲しみを共有してくれることを願っているのです。

パトリシア・ポラッコ 作 福本友美子 訳 アスラン書房 1,620円  (2015年 ’平成27年’ 3月18日 208回 杉原由美子)

プー横丁/TOP

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です