ぼうさまになったからす

 2月末に亡くなられた児童文学作家の松谷みよ子さんは、絵本作品も多く遺されました。以前、この欄でご紹介した『こめんぶくあわんぶく』は美しい民話絵本、『わたしのいもうと』は、いじめられて不登校になり、ついにはろうそくの炎が消えるように、衰弱死する少女を描いた社会派の絵本でした。そして今回は、平和を願う絵本です。
 子どもの頃からお話を聞くことが好きだった松谷さんは、日本中のお話を聞いて回りました。『ぼうさまになったからす』は、長野県で聞いたお話が基になっています。
 その村には、からすがたくさん住んでいました。しかし、からすの姿が見えなくなった時期があったのです。それは、日本が戦争をしていたころでした。村が、やけに静かになったと思ったら、からすがいなくなっていたのです。
 「どこへいっちまっただ、からすは…」みな不思議に思いました。すると、1人のばあさまが、「おらあ、知ってるだ。からすは、おとむらいに行っただよ」と言うのでした。「からすはぼうさまになって、おらのむすこのところへ、おまえのていしゅのところへ、おまえのあにきのところへも、海をわたって行って、ひとつひとつのお墓にお経をあげてくれただよ」と言うのでした。
 司修さんの描くからすは、初めは村の木々に群れて遊んでいます。そして、ばあさまのことばを裏付けるように、戦争が始まると、海を渡って飛び始めます。そして、海を渡るうちに、次第しだいに黒い袈裟をつけたぼうさまの姿になっていくのです。「ああ、ほんとうに行ってくれたんだ」と思わせる、迫力ある場面です。
 私は、若いころ初めてこの場面を見たとき、怖くて怖くて、「そんなに怖がらせなくてもいいじゃない」と、画家さんを恨めしく思うくらいでした。怖いはずです。司さんは、時と場所を変えて鳥のスケッチを重ね、高野山で、僧侶に姿を変えるイメージをつかんだといいます。
 今となっては、一番怖いと感じるのは、3刷版から最終ページに書き加えられた、松谷さんの遺言とも思える次の言葉です。
 「からすよ 二度と 海をこえるな」
 私たちは、この遺言を守ることができるのでしょうか。

松谷みよ子 文 司修 絵 偕成社 1,296円  (2015年 ’平成27年’ 4月22日 209回 杉原由美子)

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