アンナの赤いオーバー

 キリスト降誕、サンタクロース、モミの木、トナカイ、プレゼント、トムテにアドベントにクリスマスキャロル……。数あるクリスマス絵本も、国の内外の、 身の安全をないがしろにされている子どもたちのことを思うと、気軽には楽しめなくなってしまいました。「今年のクリスマスは、元気になる絵本なんて無理」、 そう悲観していたとき、この絵本と目が合いました。
 表紙の、赤いオーバーを着ているアンナは、とても暖かそうだし、幸せそうです。でも、このオーバーを手に入れるまでには、とても長い時間と、工夫が必要だったのです。
 お話の舞台は、戦後まもないヨーロッパの小さな町。
 育ち盛りのアンナの青いオーバーはつんつるてんになっていました。でも、戦争で街も人も傷だらけになり、商品もお金も不足しているのでした。 オーバーを新調してやりたいお母さんは、家にある「宝もの」を探し出してみました。金の懐中時計、ガーネットの首飾り、年代物のランプとティーポット。
 初めに、羊を飼っている農家を訪ねました。羊毛は金時計で商談成立。羊の毛を刈り取る春まで待って羊毛を受け取りました。次に、ランプと引き換えに、 羊毛を毛糸につむいでもらいました。その毛糸を染めるのは、お母さんとアンナの仕事。コケモモの実できれいな赤に染めました。
 織屋のお姉さんは、 ガーネットの首飾りを気に入って、糸を赤い布に織ってくれました。最後は仕立て屋さん。大きな陶器のティーポットを受け取り、代わりにアンナのオーバーを縫ってくれました。
 出来上がった赤いオーバーはとても美しくて、アンナとお母さんは大満足でした。そこで、心ばかりのクリスマスのお祝いを計画し、 オーバー作りにかかわった人たちみんなを招待したのでした。
 絵を描いたアニタ・ローベルはユダヤ人で、子どものとき、収容所に入れられています。きれいなものは何もなかった、と自らの子ども時代を語るアニタは、 自身の才能を伸ばし、生命力豊かな絵で私たちを励ましてくれます。
 実話を元にした絵本、ということになっていますが、実際、世界中どこでも、同じようなことがあったと思います。肝心なのは、どこであれ、 平和なクリスマスがきた後は、もう絶対に戦争が起こらないことなのです。

ハリエット・ジィーフェルト 文 アニタ・ローベル 絵 松川真弓 訳 評論社 1,404円
(2015年 ’平成27年’ 12月16日 217回 杉原由美子)

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