のっぽのスイブル155
子ども、とりわけ男の子たちが大好きな、はたらく車の絵本です。でも、「スイブル」を知っている子は少ないと思います。それもそのはずで、「スイブル」は、 子どもたちの生まれるずっと前に活躍していた作業車で、今はほとんどの車両が引退してしまっているのです。
この本に登場したスイブルくんも、昔は大活躍していたのに、だんだん仕事がなくなって、格納庫の隅で眠っていたのでした。動いていないので、体じゅうがサビだらけ、 本人(車)も、自分がどんな仕事をしていたのか、忘れてしまうくらいでした。
ところがある日のこと、巨大な地震が起きて、スイブルくんも激しく揺さぶられ、目をさまします。そしてまもなく、作業服姿のおじさんたちが、彼を迎えに来ました。 ぜひやってほしい仕事があるというのです。
でも、このクズ鉄のような体で、はたらけるのだろうか、スイブルくんは自信を持てません。ところが、おじさんたちは、 「わたしたちにまかせてくれ」と言って、なんと、スイブルくんの体をバラバラに分解しはじめたのでした…。
スイブルとは、水陸両用ブルドーザーのことです。特殊なスタイルや色にも、水陸両用ならではの理由があるのです。 東日本大震災で崩落寸前になった宮城県名取川の閖上(ゆりあげ)大橋の橋脚の修理に、このスイブルが使われました。
万全を期して、 先ずは14カ月もかけてスイブル自体の解体修理が行われました。新品同様の姿になったスイブルは、熟練のオペレーターさんの操縦で、見事な仕事ぶりで本領を発揮しました。 絵本の中でも、スイブルがはたらく力を取りもどしていく過程を、被災地復旧をめざす人間の情熱をからめながら、感動的に描いています。
車の絵には定評のある作者と、その作品のファンだという編集者が、3年がかりで完成させた絵本です。はたらく車に魅力があるのはなぜなのか、 大事な使命をはたそうとする人間と共同作業をしているからだと、私は気づかされたのでした。大震災からの復興はまだまだ続きます。 スイブルは、今日もどこかではたらいているのです。
こもりまこと作 偕成社 1,512円 (2016年 ’平成28年’ 2月17日 219回 杉原由美子)