あしたがすき
岩手県釜石市に住むサキちゃんには、大好きな場所があります。「こすもす公園」という、手作りの公園です。大地震の後、それまでの遊び場が仮設住宅地になってしまったので、 子どもたちが安心して遊べるように、藤井さんというご夫婦が自宅の周りの土地を公園にしてくれたのです。
その日も、お気に入りのブランコを揺らしていたら、日差しが陰ってポツンポツンと雨が落ちてきて……「あっ、つなみ!」サキちゃんには、向いの工場の大きな灰色の壁が、 自分に迫って来るように感じられたのです。その夜、サキちゃんは怖い夢にうなされました。
話を聞いた藤井さんは、「工場の壁に明るい絵を描こう」と決め、工場の社長さんに会いに行きました。社長さんは、「背中を貸すだけ」と、快諾してくれました。とはいえ、 幅43m、高さ8mもある壁、素人には手に負えません。藤井さんは、八方手を尽くして絵を描いてくれる人を探し、材料や道具の調達に協力を頼んで回りました。
絵を描いた阿部恭子さんは、当時、南国タイに住んでいたのですが、壁画の仕事をしたいと、駆け付けてくれました。
足場を組み、下塗りをして、少しずつ仕事は進んでいきます。工場と公園の境のブロック塀には、子どもたちの人がたを取って、自分じぶんで色を塗ることになりました。こうして、延べ500人が、1年をかけて壁画は完成しました。完成式の日の場面を、絵本の中では、横長の絵本をさらに見開きページにして大迫力で表現しています。
この壁画は、「希望の壁画」と名付けられて、地元だけでなく、遠くからもおとずれては、眺める人が絶えないそうです。復興には、終わりはありません。昨日より今日、 今日より明日が、より幸せになっていなくてはなりません。子どもたちの笑顔のために力を出し合ったみなさんのこと、この絵本で知りました。
指田和 文 阿部恭子 絵 ポプラ社 1,404円 (2016年 ’平成28年’ 3月16日 220回 杉原由美子)