ジェーンときつねとわたし
主人公エレーヌは、小学5年生。クラスの、おしゃれな女の子グループの、いじめの標的になっています。聞こえよがしのからかい、落書き、仲間はずれ…。
エレーヌは、困難に立ち向かうのに、反論したり先生や親に相談したりしないで、他者との関係を断つ方法を選んでいます。学校でも、通学バスの中でも、 宿泊学習のテントの中でも「本を読むのに忙しい」ふりをしているのです。エレーヌが没入している本は、『ジェーン・エア』です。
赤ん坊のとき孤児になったジェーンは、親類にも疎まれ、10歳で寄宿学校へ追いやられてしまいます。ここでエレーヌは、不人情な大人を憎み、 物心共に孤独なジェーンと自分を重ね合わせます。
ジェーンは、寄宿学校で、自分の資質を認めてくれる先生に出会い、親友も得られました。持ち前の向上心で勉強を頑張り、家庭教師として自立して、寄宿学校から巣立ちます。 エレーヌは、ジェーンの、自分で自分の運命を切り拓こうとする「戦術」を見習おうとします。が、現実は厳しく、幻のように現れた、友だちになってくれそうだった「きつね」は、 人間界まではやって来ることができないのでした。
ジェーンは、雇い主のロチェスター氏に愛されプロポーズされますが、結婚式場でロチェスター氏に妻があることが暴露され、一からやり直し、となります。 「やっぱり奇跡は起こらないんだ」と落胆するエレーヌを、ちゃんと見ていてくれたクラスメートもいたのです。ここに、幻ではない本物の「友だち」が登場して、エレーヌに、 実生活の明るい面を思い出させてくれます。さんざん回り道をしたジェーン・エアが最後に幸せをつかむように、エレーヌにも、朗らかな日常が訪れます。
内向的になりがちな10代の女の子の心情を、やわらかなタッチのイラストと、重厚な小説の世界を混在させることで、深く描き切っていると思います。 思春期にさしかかる女の子みんなに出合ってほしい1冊です。
ファニー・ブリット 文 イザベル・アルスノー 絵 河野万里子 訳 西村書店 2,376円
(2016年 ’平成28年’ 4月20日 221回 杉原由美子)