おばあちゃんとバスにのって
日曜日、ジェイとおばあちゃんは、いつも教会へ出かけます。そして、その後、必ず行くところがあるのでした。 その日も、元気よく教会を出てきたジェイでしたが、おや、雨が降ってきたようです。
「いやだなあ、雨」気持ちが落ち込んだのか、つい不満を口にしてしまうジェイでした。 おばあちゃんは、「でも、木はのどがからからだったみたいよ」と満足そうです。
バス停でバスを待っていると、友だちが、お父さんの運転する車に乗って通り過ぎて行きました。
「なんでぼくたちは車に乗らないの?」またまたジェイのちょっぴりすねた質問です。「だって、バスのほうが楽しいじゃない」と、長閑にかわすおばあちゃん。
「ぼくたちどうしていつもあそこに行くの? 友だちはだれも行ってないのに」ジェイはちょっと理屈っぽくなってきました。「あら、かわいそうに。ボボさんやトリクシーさんに会えないなんて」と、すまし顔のおばあちゃん。 ジェイは、かわいそうなのは自分のほうじゃないかと思うのでしたが……。
2人が毎週出かけて行くのは、ボランティアレストランなのでした。自分の住まいを持っていない人、食事の用意が困難な人などのために、 日曜日のお昼ご飯をいっしょに作って食べる場所でした。おばあちゃんは、そこに大切な友だちがいるのです。
私は、ジェイとおばあちゃんといっしょにバスに揺られながら、2人はこれからどこへ行くのだろう、 おばあちゃんが、孫の言い分に優しいながらもきっぱりと受け答えできるのはなぜだろう、と思っていました。 読み終えて、おばあちゃんからの、「孫には人や自然への思いやりを持って生きてほしい」という信念がこちらにも伝わってきました。
アメリカで、昨年いくつもの賞を取った作品です。それにしては、絵も文もたいへん穏やかなのに驚いています。 静かに闘う、といいますか、新しい表現の絵本が生まれています。さわやかな読後感でした。
マット・デ・ラ・ペーニャ 作 クリスチャン・ロビンソン 絵 石津ちひろ 訳 すずき出版 1,620円
(2016年 ’平成28年’ 10月19日 227回 杉原由美子)