一日だけうさぎ
「9月になって すずしくなった」と、お話は始まります。
長袖のパジャマで気持ちよく眠っていたわたし。なんだか暑くなって、ぐいーんと耳を引っ張られる気がして、 「ああ、今年は今日なんだ」と起きてみたら、わたしはうさぎに変身していました。
わたし、の住んでいる町は、1年に1日だけ、町民全員がうさぎに変身するのです。住民は慣れているので、 用意してあった「うさぎに変身したとき用の服」に着替えて、学校や職場に向かいます。
わたし、の行く小学校では、 児童も先生もみなうさぎになっているので、困ることもありません。授業も全部体育になります。あ、困ることは、 給食のお肉や牛乳が食べられないこと。その代わり、うさぎの日には、学校で飼っているうさぎや、 ほかの動物たちとおしゃべりができるのです。
うさぎたちもそれを知っているので、このときとばかり、困りごとを訴えてきます。 「日曜日にもエサをちょうだい」とか。
うさぎになってみると、いつもと違う風景が見えたり、もっと暮しやすい町にしなければ、と思ったりするので、 うさぎの日が終わると、町は前よりずっといい町になっている、のでした。
このお話を書いたのは、当時小学3年生だった原知子さんです。「うさぎになろうと思えばいつでもなれる」 くらい動物好きな知子さんの、日記かと思えるくらい自然な文章です。すらすらと楽しく読みながら、小さいもの、 弱いものがビクビク暮らすのではない社会、を目指している、という視点に気づきます。
例えば、わたし、 のお父さんもうさぎに変身して、会社に出勤しました。お父さんは電車に乗って隣の町に行くので、 周りの人はうさぎではありません。お父さんはいつも通りの仕事もできないのですが、会社の人たちに「かわいいうさぎ」と 頭をなでてもらってうれしかった、と書いてあります。知子さんの、どんな命も大切にしたい、という信念が貫かれているのです。
「わたしは、この町が大すき!」と結ばれていて、ほっと救われたような、温かい感慨に包まれました。
原知子 文 こばようこ 絵 くもん出版 1,296円 (2017年 ’平成29年’ 9月20日 237回 杉原由美子)