星につたえて

 地球上に、生き物といえばクラゲくらいしかいなかったころのこと、広い海に、ひとりぽっちで浮かんでいたクラゲは、ある晩、「やあ、月かと思いました。 でも、月よりももっとすてきです」と声を掛けられてびっくりします。声の主は、星でした。それも、広い空をとてつもなく長い周期で回っている彗星なのでした。
 クラゲと星は、互いの知らないことをたくさんしゃべっているうちに、とても気が合うことがわかりました。夜が明け始めたとき、 クラゲは「今夜、また会えますか?」とたずねます。すると星は、「今夜はここを通りません。何百年かたてば通るかもしれません」と答えるのでした。 クラゲは、不意を突かれて、何か大事なことを言わなければならないと思いながら、とうとう何も言えないまま夜が明けて、星は見えなくなってしまいました。
 その日の夜、次の日の夜、クラゲは星を待ち続けます。何百年がどれくらいの長さか、クラゲには想像もつかないのでした。星との再会を待つうちに、 クラゲはすっかり年を取ってしまいます。それで、子どものクラゲに伝言を託して、ひっそりと死んでいきます。長い時間がたつうちに、地球の生き物は進化して、 クラゲと別のかたちの仲間も現れ、地上で生きる物も誕生しました。でも、姿は違っても、クラゲの伝言はすべての生き物に受け継がれました。
 クラゲが伝えたかったことば、お話の最後のところに現れます。それはとても素朴なことばです。でも、そのひと言を伝えられたかどうかで、 運命が変わることもあります。親と子、先生と生徒、恋人同士の場合ならなおさらのこと。
 ていねいな言葉づかいと、抑制のきいた静かな絵が、舞台芸術のような効果を生んで、伝えたかったひと言が忘れ難いものになっています。
 ぜひ、声に出して、ゆっくりと読んでください。ひと言を伝えたくなるだれかを、きっと思い出すことでしょう。

安東みきえ 文 吉田尚令 絵 アリス館 1,620円  (2018年 ’平成30年’ 2月21日 242回 杉原由美子)

毎日新聞/Web   プー横丁/TOP

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