おにいちゃんとぼく
おにいちゃんとぼくは、とても仲のよい兄弟。家の中では楽器を弾いたり、お話したり。散歩の時は、おにいちゃんの犬、ロコも一緒。 公園に行くにはきっかり10段の階段を上る。地下鉄の改札口までなら、56段。おにいちゃんが教えてくれた。
ぼくの家の中はいつもすっきりと片付いていて、何か使ったらすぐに元の場所に戻す。だって、おにいちゃんは、どこに何があるか、 すべて記憶して生活しているから。そこいらにおもちゃを散らかしっぱなしにしておいたら、おにいちゃんが、つまずいてしまうかもしれない。 だから、ぼくが好きなようにおもちゃを広げられるのは、ぼくのベッドの上だけ。
おにいちゃんはすごい。とても耳がよくて、一度聞いたことは全部覚えている。お母さんが置き忘れた鍵の場所を、音の記憶を頼りに、ちゃんと言い当てた。 夜、ぼくは、灯りを消すと本を読めなくなるけど、おにいちゃんは真っ暗闇の中でも本を読み続けられる。そして、本の続きや、 自分で作ったわくわくするようなお話をいつまでも語ってくれる…。
この絵本の中にはひと言も書いてありませんが、おにいちゃんには目が見えない、という障がいがあるようです。と書いてすぐ、 「障がい」という表現はふさわしくない気持ちになります。それは、絵本を読むうちに、「ぼく」の気持ちが、私に乗り移ったからだと思います。 「ぼく」は、目の見えないおにいちゃんが、自分や自分の友だちにはできないことをいとも簡単にやってのけることに感服し、誇りに思っているのです。
言葉だけでなく、絵からもたくさんのメッセージを受け取ることができます。いつも穏やかな表情のおにいちゃん。 やんちゃ盛りながらTPOを心得ている「ぼく」と「ぼく」の友だち。おっとりと優しい愛犬(盲導犬なのですね)のロコ。家の中も、町や公園も、 子どもが描いた絵のように明るく伸びのびとしていて、癒されます。
考えてみれば私だって、赤ん坊を育てていたころは、だれに言われなくても、子どもの行動範囲に危ないものがないか、常に気を配っていたものでした。 もしかしたら、あの心構えでもって、たいがいの障がいを克服できるのでは。というのは、ちょっと甘すぎるでしょうか。
ローレンス・シメル 文 フアン・カミーロ・マヨルガ 絵 宇野和美 訳 光村教育図書 1,296円
(2019年 ’平成31年’ 3月20日 255回 杉原由美子)