線と管のない家
タイトルにある「線」とは電線、「管」とは水道管のことです。今の日本ならどの家にも、当たり前のようにつながっている「線」と「管」です。文明の象徴のようなこの「線」と「管」が、もしも途切れてしまったら、どうなるでしょうか。
夜は真っ暗、暑さ寒さには耐えられない、ご飯も炊けない、トイレも使えない、天気予報もわからんし、携帯の充電できんし~。地震や台風など、甚大な災害が起きると、そういう事態に直面します。
この絵本を作った写真家と酪農家と建築家の3人は、この「もしも」を真剣に考えて、「もしも」が起きても大丈夫な家を作ってみることにしました。アイデアを出し合って設計、模型をこしらえて実際の建築場所に持っていき、構想を練りました。
できた家には、電線を引かずに屋根の上のソーラーパネルで発電します。水道管も引かずに、雨水をためておいて浄化して使います。排水するときは、台所の水とお風呂の水を区別して、それぞれ動植物やバイオジオフィルターの特長を生かして浄化します。トイレの排泄物は、タンクに吸い込ませて、生ごみといっしょに野菜作りの肥料にします。
家を建てた場所は、小高い丘のてっぺん。日当たり、風通しは良好ですから、クーラーは不要です。最近の電気製品は消費電力が少なくなっていることも幸いしました。家全体も、木肌をそのまま生かして、塗料などは使いません。設計者の中村さんが、自然に近い状態が良いと考えたからです。
こうやって、自然の恵みを上手に利用した家ができました。
読後、私は、福島県の山間部で、同じような家を建てた女性を思い出しました。その人は、大学卒業後、大工の修行をして、夫と2人で家を建てました。電気は自給し、井戸を掘って水を汲んで、子ども2人を育てました。
ところが、東日本大震災が起きました。彼女の家は、福島第一原発から23㌔しか離れていなかったので、せっかく整えた生活環境をあきらめて、中国地方の生まれ故郷に帰らざるを得ませんでした。
「もしも」に100%対処できる家をつくることは難しいです。でも、人間は、「もしも」の事態を想定し、工夫を重ねていくことはできると思います。
森枝卓士 文・写真 吉田全作 写真 中村好文 絵 福音館書店 770円 (2020年 ’令和2年’ 2月19日 264回 杉原由美子)