ちいさなしまのだいもんだい
小さな島には、がちょうとあひるが暮らしています。そして、対岸の大きな陸地には、牛や馬や豚、にわとりが。おおざっぱにいうと、泳げるヤツと泳げないヤツに分かれているのです。これもまたおおざっぱにいうと、泳げるヤツらは、頭はいいけど力がないのです。それで、橋を渡ってくる力のあるヤツらに畑仕事や大工仕事を手伝ってもらって、その見返りに島の産物を分けていました。
その様子を、なかがわちひろさんは「かんぺきではないにせよ、みんなはおおむねまんぞくでした」と、訳しています。原語でなんて書いてあるのか、ナイスセンテンスですね。
ところがある日、頭が良すぎたのか気が短すぎたのか、一羽のがちょうが不満を表明します。
「ここはぼくらの島なのに、どうしてひつじやぶたがいつもうろちょろしてるんだい?」
あーだこーだと文句を言い続けていると、それもそうだと賛同するがちょうが増え、ついに「あいつら(動物たち)とは縁を切ろう」ということに決まって、たった一本架かっていた橋が撤去されます。実は、あひるたちはそういう排他的な意見には反対だったのですが、声が小さかったことと、数が少なかったことから、押し切られてしまったのです。
こうして小さな島は静かになった代わりに、決定的な労働力不足に陥りました。そしてある晩、がちょうとあひるを狙うきつねたちが音もなく島に泳ぎ着いて…。
人間界においては、目下の大問題は、コロナウィルス対策です。小さな島も大きな島も関係なく。貧しい島か豊かな島かも関係なく。しかし、賢い島と愚かな島、という対比はできそうです。島に住む老若男女一人ひとりが、生き残りに適した環境にあるかどうかが問われます。希望の橋を壊された、見捨てられたと感じる人が増えることになれば、感染の有無にかかわらず、島の命運は尽きると思います。
絵本の中の小さな島は、きつねの侵入にジタバタドタバタ騒いだおかげで、対岸の動物たちに加勢してもらうことができ、命拾いをしました。やれやれ。かんぺきでなくても、楽しくやってね。
スムリティ・プラサーダム・ホールズ 作 ロバート・スターリング 絵 なかがわちひろ 訳 光村教育図書 1,650円
(2020年 ’令和2年’ 4月22日 266回 杉原由美子)