ちいさな島のおおきな祭り
前回に続いて小さな島のお話。今回ご紹介する小さな島は、沖縄県の竹富島です。日本のほぼ最西端、台湾の近くに位置します。人口300人余り、徒歩でも、2時間あれば一周できるほどの小さな島ですが、そこで毎年執り行われるお祭りが、それはそれは大したものなのです。
絵本は、数ある竹富島の祭りの中でもいちばん盛大な「種子取祭(たねどりさい)」の芸能に出演する、なつみとてっぺいきょうだいを主人公にしています。
10月ころ、2日間にわたって行われる祭りでは、80演目にも及ぶ歌や踊りが奉納されます。島で生まれ育ったお父さんお母さん、お兄さんお姉さん、おじいさんおばあさんたちがその日のために集まって、夏休み前から練習を重ねます。締めくくりの演目に決まったのが、なつみきょうだいの出演する「鬼とり」というキョンギン(狂言)です。親をさらわれた子どもと、人食い鬼との掛け合いです。
なつみは、保育園児のとき、ミルク(弥勒)の神さまをお迎えする役で参加しました。その時は、みんなの中の1人でした。でも、今度は、お兄ちゃんと2人、衣装を身につけ、顔にくっきりと化粧を施し、大勢の観客の前で、台詞も言わなくてはなりません。できるかな、忘れたらどうしよう、と楽しみと心配とでドキドキしながら当日を迎えました。
作者の浜田桂子さんは、島の子どもたちに美術指導をした縁で、この祭りを知りました。是非絵本にしようと決心して2年をかけて仕上げました。絵本の中にいきいきと描かれているのは、仲良しになった子どもたちです。
種子取祭は、600年もの歴史があり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。稲作のできない地質であるため、限られた穀物が無事に育つよう、心を込めて祈り続けてきたのです。また、島には、沖縄復帰後に制定された独自の竹富島憲章もあります。「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」という約束です。
急速な開発から島の土地を守るための憲章ですが、島の魂を守ることにもつながったのではないでしょうか。伝統と未来の両方を大事にする魅力的な島です。できることなら、いつか、お祭りに参加したいです。
浜田桂子 作 新日本出版社 1,650円 (2020年 ’令和2年’ 5月20日 267回 杉原由美子)