たべるたべるたべること

この絵本の出版元は、業務内容に「食育講座」も掲げています。食べものと食べる時間の両方を大切にしているからです。
表紙をめくると、とある農家の何気ない夕食風景。初老の夫婦と若夫婦の家族です。お嫁さんのお腹には赤ちゃんが育っているようです。「たくさん食べられ」ということでしょう、家族がおかずのお皿を左右からお嫁さんに差し出しています。「たべることはいのちをはぐくむということ」ということばがついています。
次は、生まれた赤ちゃんの「お食い初め」。「たべることはいわうこと」となっています。
そして、幼稚園のお弁当の時間。ここで出会う外国人の男の子は、次の小学校の運動会の場面にも登場します。食べているのは、大きなおにぎりです。
赤ちゃんは両親や祖父母に大切に育てられて少女へと成長し、親元を離れて働くようになります。都会でバリバリ働いて、食べることが粗略になっていたところへ、親からたくさんのお米や野菜が送られてきます。
そこで思い立ったのは、おにぎりをたくさん作って仕事場の仲間に分けることでした。その、ふるさとのお米のおにぎりが、思いがけないめぐり逢いに結びつきます。
「たべることはわかちあうこと」「たべることはあいをつたえること」などのことばが続き、食べることが、さまざまな目的を果たしているとわかります。
幼なじみと結婚した女性は、自らも母となります。最終ページのことばは、「たべることはいのちをつなぐということ」。
男の子は、タイ国籍という設定のようです。幼いころに、おにぎりを分けて食べた思い出が、二人を結ぶ伏線になっています。
我が家にも成長して家を出た三人の娘がいます。お米を買って運ぶのはたいへんだろうと、うちで収穫したお米をそれぞれに送っているのですが、先日次女がお米を辞退してきました。「ここを選んで移住したのだから、ここのお米や野菜をいただきます」と。
住んでいるのは青森県です。たしかに農産物、海産物に恵まれた土地です。娘には、作っている人の顔も見えるようになったのでしょう。そこまで馴染むことができて、親としても一安心です。「たべることはなかよくなること」ということばも、絵本の中にありました。
くすのきしげのり 作 小渕もも 絵 おむすび舎 1,650円 (2020年 ’令和2年’ 6月17日 268回 杉原由美子)