がっこうだってどきどきしてる

 街の一画に新しい建物が建ちました。家よりは大きいけど、ビルディングよりは小型です。建物は、自分が何をする場所なのかわかっていません。せっせと仕上げの掃除をしている用務員の若者に「ぼくは、きみの家になるんだね?」とたずねます。用務員さんは笑って「きみは学校だよ。いまに、子どもたちが来て、勉強したり遊んだりするのさ」と答えます。
 新学期が始まって登校してきた子どもたちの中には、「学校なんか大嫌い」と言い出す子が現れて、学校の建物は深く傷つきます。おとなし過ぎて自分の名前を言えない子もいます。学校が楽しくないのかなと、建物は心配になってしまうのでした。でも、いろいろな子どもと先生がいて、終わってみるとなかなかいい一日だったと思えるのでした。
 私は、自慢じゃないけど、不登園児でした。せっかく2年間幼稚園に通える歳で入園したのに、1年目の1学期でいったん退園し、2年目に入り直してなんとか卒園しました。親は、「この子、学校に行けるやろか」と心配だったに違いありません。その心配は無用でした。私は小学校の6年間は、ほぼ休むことなく登校できました。考えてみたら不思議です。
 この絵本を読んだとき、思い当たることがありました。私は、絵本に出てきた自分の名前も言えない子とそっくりで、どきどきしながら登校していました。でも、学校が好きだったのです。そこで出会った先生や友だちにも恵まれていたと思いますが、たしかに学校そのものが好きでした。
 建物や設備や、外回りの植栽などから、「自分たちは大切にされている」というメッセージを受け取っていたと思います。私が卒業した小学校は既に新築移転してしまったのですが、形は変わっても、子どもたちにとって心地よい学校であってほしいと願っています。

アダム・レックス 作 クリスチャン・ロビンソン 絵 なかがわちひろ 訳 WEVE出版 1,540円
(2021年 ’令和3年’ 4月21日 277回 杉原由美子)

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