すてきなひとりぼっち

 主人公の一平くんは「ひとりぼっちには慣れている」とやたらにつぶやきます。学校の教室でも、帰り道でも。おとなしい性格なので、10年あるかないかの人生において、ひとりぼっちでいることが当たり前になってしまったようです。
 でもそれは、「ひとりぼっちがいい」とも、「ひとりぼっちが好き」とも違います。ましてや「人はみなひとりぼっちで生きるべきだ」という意志を固めて大人になっていくこととも違います。
 きっと、本人もそう思っているに違いありません。だからこそ、雨の中を大急ぎで帰ってきたのに玄関に鍵がかかっていたとき、決然として行動を開始したのです。「お母さんを迎えに行こう!」と。その瞬間の一平くんの表情が、とても印象的です。
 また、お母さんの外出先に向かう途中で拾った「カメ」も運命を変える小道具のひとつです。カメさんには失礼だけど。それと、予期せぬ道路工事。
 決意を固めてやってきた商店街で図らずも迷子になってしまった一平くんは、あれよあれよという間に世話好きな大人たちに取り囲まれます。「一人なの?」「お母さんは?」「寒くない?」「お腹空いたでしょ?」声掛けと親切が雨あられのように降ってきたのでした。
 一平くんは商店街の大人たちの尽力によりお母さんと合流でき、カメも家で飼えるようになりました。「ほら、一平くんはもうひとりぼっちではありません」で終わる終わり方もあるわけですが、なんでかタイトルは「すてきなひとりぼっち」。タイトル通りのすてきな終わり方を読んで確かめてみてくださいね。
 本書は絵本と読み物の中間のスタイルです。55㌻すべてにカラーの絵が入って、とても読みやすくできています。もちろん総ルビです。文字を読めるようになった子どもが「ひとりで」読むように作られた本だと思います。ひとりで過ごす時間をどうか大切に。

なかがわちひろ 作 のら書店 1,650円  (2021年 ’令和3年’ 5月19日 278回 杉原由美子)

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