はらぺこあおむし

 「はらぺこあおむし」の作者エリック・カールさんが、5月に91歳で亡くなりました。エリックさんの名前は知らなくても、「はらぺこあおむし」のことは多くの方の記憶にあるのではないでしょうか。なにしろ45年間で400万部、日本一売れた翻訳絵本です。
 「おや、はっぱのうえにちっちゃなたまご」とお月さまがつぶやくところから始まります。夜が明けて、良く晴れた日曜日、たまごから生まれたあおむしは、おなかがぺこぺこです。
 「げつようび、りんごをひとつたべました。まだおなかはぺっこぺこ。」
 「かようび、なしをふたつたべました。やっぱりおなかはぺっこぺこ。」
 あおむしは、水曜日にすももを三つ、木曜日にいちごを四つ、金曜日にオレンジを五つ食べ、土曜日にはケーキやアイスやソーセージまで食べまくって、おなかを壊してしまいます。次の日曜日、緑の葉っぱがいちばんおいしいと気づいたあおむしは、葉っぱをたくさん食べて元気回復。さなぎになって休んだあとは、無事美しい蝶になって飛び立つのでした。おめでとう!
 くっきり明るい色彩とリズミカルにくり返すことば。数や曜日が示されることで、お話が俄然真実味を帯びてくるから不思議です。子どもの気持ちを大切にしたエリックさんの茶目っ気が感じられます。
 この絵本は、我が家にももちろんありました。保育園児だった末娘が読み聞かせもしてくれました。「はらぺこあおむし」は絵本としては大型なので、観客に見えるように支えて持つのはたいへんそうでした。
 まずは表紙から。「はらぺこあおむし。エリック・カールさく。もりひさしやく。」すごい、ちゃんと作者名も読んでる。次に扉の部分。「このえほんをいもうとのクリスタに。」ここで娘はちょっと首をかしげました。そして、にっこり笑って、書き忘れたのであろう言葉を付け足しました。
 「もらったのかな」
 必死になって笑いをこらえた私。娘は、親も楽しんでいるらしいと、終始満足げに読んで、読み聞かせを終えました。
 この絵本を妹のクリスタさんにもらったのかどうか、エリックさんに直に確かめることはついに叶いませんでした。ご冥福をお祈りいたします。

エリック・カール 作 偕成社 1,320円  (2021年 ’令和3年’ 6月16日 279回 杉原由美子)

毎日新聞/Web   プー横丁/TOP

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