ぼくは川のように話す
カナダの詩人、ジョーダン・スコット氏は、子どものころから吃音に悩んでいました。言いたいことがあっても上手く言葉に出せなくて、ようやく声にしてみたら、しゃべり方がおかしいとゲラゲラ笑われる。それが怖くて、なおいっそう話せなくなる、という悪循環だったのでした。
ジョーダン少年が打ちひしがれている時、お父さんが川べりへ連れて行ってくれました。「ぼくたちは、川岸で石を投げて水切りをしたり、サケがあらわれるのを待ったり、虫をとったり、ブラックベリーをつんだり、しゃべらずにできることはなんでもやった。」とあとがきに書いてあります。お父さんは、なんとか息子を元気づけようと一生懸命だったのです。
やっぱり今日もしゃべれなかったと泣きそうになっていた時、お父さんがジョーダン少年の肩を抱き寄せ、川を指差して言いました。
「ほら、川の水を見てみろ。あれが、おまえの話し方だ」
見れば、川の水はひとときも休むことなく、あわだって、うずをまいて、なみをうち、くだけて、つっかえたり飛び跳ねたりしていました。それが当たり前だろうと言わんばかりに、楽しそうにのびのびと…。
そのお父さんの言葉と川の風景はジョーダン少年の心に深く沁み込んでいきました。後年、詩人となって、この時の気持ちを作品に結晶させました。詩に感銘を受けた編集者が、若くしてキーツ賞などを受賞している気鋭の画家シドニー・スミス氏に声をかけてこの絵本が生まれました。
詩人と画家と間を取り持った編集者と、私はもう一人、この絵本の作者が存在すると思います。それは、お父さんです。息子の涙を止めたい一心で、目の前の川に助っ人を頼んだ、その大らかさと優しさと、ちょっぴり混じった可笑しさが、その後の少年の希望の源になりました。
「流暢に話したいと思うことはある。でも、そうなったらそれはぼくではない。ぼくは川のように話す。」
ジョーダン氏の、自信に満ちた温かい言葉で締めくくられている本です。
ジョーダン・スコット 文 シドニー・スミス 絵 原田勝 訳 偕成社 1,760円
(2021年 ’令和3年’ 9月22日 282回 杉原由美子)
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