雑木林の20年
この絵本の発売前、出版社から届いた刊行予定を見て、すぐに『田んぼの1年』の作者だと気づきました。2年前、この欄でご紹介した本です。自然描写が写真のように正確無比でありながら、できるだけたくさんの動植物を明るく美しく描き込みたいという姿勢が、全く同じです。
同じでなかったのは、取材期間が20倍であることです。田んぼは1年サイクルでほぼ同じ仕事をしますが、この絵本に描かれている「炭焼き」の仕事は、炭にする木が芽生えて炭焼きに適した大きさに育つまで20年かかるからです。
言われてみれば当たり前のことなのに、この絵本に出会うまで意識していませんでした。炭焼きを仕事にしたからには、最低でも20年経たないと、一通りの技術を習得できないのです。
大抵の植物は四季の移り変わりと共に生まれ育って子孫を残し、その役割を終えますが、炭の原材料であるクヌギやコナラの木は、じっくり育てられて、20年目の冬に伐採されます。枝はそのまま燃料に、幹は大きさを揃えて薪や炭にされます。
伐採されたクヌギやコナラは切り株だけになってしまって寂しいような気がしますね。でも大丈夫。切り株の周りには、春から夏にかけて、ひこばえと呼ばれる若木が伸びてきます。ひこばえはすくすく伸びて20年後の炭焼き要員となるのです。そうなると、20年もあっという間に思えてきます。
実は、そう思った人が身近にもおられました。それは、焼き芋屋のⅯさんです。既に販売用のサツマイモの自家栽培はしていたのですが、燃料も地元の炭がいいと考えたⅯさんは、最近植林も始められたのです。なんと、遠大かつ優しい発想でしょう。ご縁あって、真っ先にこの絵本も購入してくださいました。
一期生のドングリの20年後の成長を楽しみに、長生きしたいと思います。
瀬長剛 作 偕成社 2,750円 (2021年 ’令和3年’ 11月17日 284回 杉原由美子)