パンのかけらとちいさなあくま ― リトアニア民話

 今年は堀内誠一生誕90年にあたり、記念の作品展が全国を巡回中です。つい先日、東京に住む長女が、静岡に住む三女と連れ立って静岡県三島市近郊の美術館で鑑賞してきたと絵葉書を送ってきました。娘たちにとってもなじみ深い絵本作家なのです。『こすずめのぼうけん』『でてきておひさま』『てんのくぎをうちにいったはりっこ』『いかだはぴしゃぴしゃ』‥‥‥。まだまだたくさんあって、今回の作品もその一冊です。
 悪魔にも修業期間があるようで、道を外れた所業は許されません。貧しい木こりのパンを盗んで得意がっていた小さな悪魔くんは、大きな悪魔たちにきつく叱られます。「なんてやつだ。貧乏な木こりの大事な弁当じゃないか。すぐに謝りに行け。おわびのしるしになにか役にたつことをやってこい。それまでは帰ってくるな」
 心優しい木こりは、「パンをかえしてくれればそれでいいよ」と言うのですが、「それではこまるんです。なにかいいつけてください」と泣き出す小さな悪魔くん。木こりはちょっと考えて、悪魔くんを耕作放棄地になっている沼地に連れて行き、「ここを麦畑にできるかい?できるなら、地主のだんなにお願いしてくるよ」と提案します。「できます、できます」悪魔くんは大喜びで二つ返事。仕事はみるみる捗って、金色に輝く麦畑が出現します。喜ぶ木こりと悪魔くん。  
 ところが、そこへ現れた地主が「沼を麦畑にしてもよいとは言ったが、おまえにやるとは言わなかったぞ。麦はみなわしのものだ」と、すべて刈り取って自分の屋敷に運ばせてしまいます。
 がっかりする木こりと悪魔くんでしたが、へこたれるわけにはいきません。一計を案じて地主屋敷に乗り込み、胸のすく見事な結末と相成ります。どうぞ絵本を読んで確かめてくださいね。

内田莉莎子 再話 堀内誠一 画 福音館書店 990円 (2022年 ’令和4年’ 7月24日 291回 杉原由美子)

毎日新聞/Web   プー横丁/TOP

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