どんな いえに すみたい?
我が家はそろそろ築60年に達します。同時期に建った近所の家々は、高齢化に合わせてリフォームしたり、世代交代に伴って新築したりしていますが、さて……。新築の予定は未定としても、どんな家に住みたいかは考えてもいいですよね。この絵本を開けば、ヒントをいっぱいもらえます。
表紙の、製図台に向かって熱心に仕事をしているネズミは、建築士のヘンリエッタです。ヘンリエッタは、クライアントの希望にぴったりの家を建ててくれると大人気なのです。例えば、リスにはツリーハウス、カワウソには釣り小屋、フクロウには天文台、のんびり屋のネコには、寝転がるのに都合のよい日本家屋を作って、喜ばれました。
自然との調和にも気を使って、ウサギやブタの家には畑や農作物の貯蔵庫が標準装備です。建物の外観はもちろんのこと、間取りや調度品、住人たちの趣味と嗜好がうかがえる小物や食べ物などが隅々まで描き込まれていて楽しめます。
登場する動物たちは、独身だったり大家族だったりそれぞれの流儀で生きています。共通するのは、理想の住まいを得て日々の暮らしを満喫できていること。読者がうらやましく感じるのはそこです。「こんな家があったらいいな」は、「こんな暮らしをしたい」なのですから。
これは昨年12月、店に入荷したばかりの新刊本ですが、厳密には、40年前に別の版元から出ていた「だれのおうちかな?」の改訳復刊です。私と娘たちは旧訳のほうを読んで大好きになっていたのに版元品切れとなり、このコーナーでご紹介する機会を逃していたのでした。
新訳は、説明文がすっきりとまとまって、文字数が旧訳の半分以下になりました。文章が寡黙になったことで、緻密に描かれた画面をさらにしみじみと堪能できるようになりました。
この絵本を開いては「私はこの家がいい」とか言い合っていた三人娘も現在は生まれた家を出て、それぞれ集合住宅につつましく収まっています。どこに住もうと、夢の設計図だけは、ずっと更新し続けてね。
ジョージ・メンド-サ 作 ドリス・スーザン・スミス 絵 木坂涼 訳 好学社 1,980円
(2023年 ’令和5年’ 1月29日 297回 杉原由美子)