おばけのこ
鬱蒼とした森の近くの一軒家に、女性を一人降ろして車が走り去っていきます。女性は大きなトランクを家の中に運び入れ、戸棚に衣類をしまいます。そこで暮らすようです。夜になってベッドに横たわると、森のほうから怒っているような恨んでいるような悲痛な叫び声が聞こえてきました。夜ごと声は大きくなり、次第に近づいてくる気配もします。
著者が名付けた「うめくもり」は、その昔、貧しい家の子どもやお年寄りが捨てられた場所という設定になっています。作品に描かれている女性は、どういう事情があったのか、あえてその怖ろしい森のそばに引っ越してきたのです。
一向に止まない叫び声に「よし、それなら」と、女性は森の中に踏み込んで行き、不思議な白いひもを見つけます。家に帰って「たしか言い伝えがあったはず」と、書物をめくると、行き場を失ってさまよう魂を解き放つ方法が書いてあり、白いひもは魂を明るいほうへ導く道しるべになるというのでした。
女性は、翌朝から白いひもづくりに熱中するのでしたが、いつの間にか、森からさまよい出てきた小さなおばけが家に入り込んでいるのでした。人間を好きになったおばけでした。このおばけにも手伝ってもらいながら、白いひもを森の木々に回しかけることによって、暗い森に閉じ込められていた魂が次々に明るい方へ飛んでいきます。しかし、いちばん大きな暗闇を飲み込んでいるおばけだけは手に負えないのでした。それどころか、あやうく飲み込まれそうになってしまうのです。
「なにか ひかりをあげたら?」というのが小さなおばけの助言でした。そして、取りかかったのがランタン作り。はたして…。
全編青インク一色のイラストで埋められています。文字はもともと最小限に抑えられているので、フィンランド語と日本語の同時表記が実現しています。導入部から前半までは、怖い本なのではと、どきどきしながら読みましたが、主人公の女性の勇敢さ温かさ、子どものおばけの健気さにすっかり安心しきって読み終えました。
「なにか、ひかりを」私自身の座右の銘にしようかな。
テルヒ・エーケボム 作 稲垣美晴 訳 求龍堂 3,520円(2023年 ’令和5年’ 3月26日 299回 杉原由美子)