戦争が町にやってくる
ロンド、と名付けられた美しい町で、ダーンカ、ファビヤン、ジールカの仲良し3人組は、楽しく暮らしていました。草花の好きなダーンカのお気に入りは、町の広場にある大きな温室です。愛用の自転車に植物図鑑も常備して、毎朝通います。ロンドの町の花たちは元気そのもの。不思議なことに、歌も歌う花なのです。町中の人が集まって、モーツァルトのロンドを合唱することもありました。
その日の朝も、花たちと歌ったダーンカは、街角のカフェでファビヤンと待ち合わせました。いっしょに、旅行好きで物知りのジールカの家に行って、旅の土産話を聞かせてもらうつもりでした。
ところが、突然町から音と光が消えました。どこからともなく、戦争が町にやってきたのです。破壊と混乱と暗闇を道連れにして。
戦争を知らなかったダーンカたちは、「出て行ってください」と叫びますが、戦争には聞く耳がありません。心臓を狙って石を投げようにも、戦争には心も心臓もありません。町はやすやすと壊され、一人また一人と人が消えていきます。何日たっても戦争は町から出て行こうとしません。
花たちはどうなっただろう、暗闇に包まれた温室に来たダーンカは、少しでも花を救おうと、乗って来た自転車のライトで照らしてみました。すると、枯れそうになっていた花が頭を持ち上げました。ダーンカは力いっぱい自転車をこいであかりを灯し続け、いつもの歌を歌いました。すると花たちは次第に元気を取り戻し、歌声が響き始めたのです。
ふと、光と歌声が温室の外にもれたとき、信じられないことが起きました。不意を突かれたかのように、一瞬、戦争の音が止んだのです。ダーンカは、はっとしました。
「もしかしたら、戦争は光と歌声を怖がっている」
ダーンカたちと町の人々は、この「もしかしたら」に賭けて作戦を練り、行動し、ついには戦争に勝ちます。
作者のお2人は1984年ウクライナ生まれです。この絵本が現地で出版されたのは2015年。前年に起きたロシアのクリミア侵攻に衝撃を受けて、何かできることはないかと、戦争を知らないで生きられたはずの子供たちが、光と歌声の力を信じて闇と闘うというストーリーを創りました。
ロンドは、輪舞曲ともいいます。大勢で互いに手を取り合って踊る舞踏曲です。作者の切実な願いが込められていると思います。
ロマナ・ロマニーシン / アンドリー・レシヴ 作 金原瑞人 訳 ブロンズ新社 1,760円
(2023年 ’令和5年’ 9月24日 305回 杉原由美子)