タケシのせかい
タケシのパパの部屋には秘密の小箱があります。「ぜったいに開けちゃダメ」といわれている箱。家に、パパもママもお兄ちゃんたちもいないある日、タケシはこっそり箱を開けます。
開けると手紙とドクロマークのついた小さなビンが入っていました。手紙にはなんと「タケシ、やっぱりお前だな」と書いてあって、ドキリ。パパにはお見通しだったんですね。
「このビンには大事なものが入っている。開けたかったら、パパの質問に答えてもらうよ」
第1問。「タケシはママの作るおはぎが好きだろう。おはぎのあんこが甘いのは、砂糖じゃないものも入っているからだ。なんだと思う?キッチンでさがしてごらん」となっていました。
ハチミツかな、アメ?チョコ?正解は「塩」だったのでタケシはびっくり。
第2問。「うちではタケシだけが左ききだね。サウスポー、気に入っているかい?」
言われてみると、不便なこともあるけれど、野球や卓球する時には断然有利なんだと確信が持てたのでした。
3問、4問と、質問の幅は学校の友だち、先生、近所の人たちにまで広がっていきます。タケシは好きな友だち、愉快な先生、面白い特技を披露するお店のお姉さんなどについて、快調に答えていきます。
最後の手紙にはこうありました。「質問に答えてくれてありがとう。ビンを開けてもいいぞ。ただし、1秒か2秒だけ。すぐにふたを閉めること」
おそるおそるビンのふたを開けたタケシは、その強烈で不思議な匂いに惑わされてふたを閉め忘れ、気絶してしまいました。おっとたいへん…。
タケシのパパは、お仕置きをしたわけではないのでご安心ください。家族思いの思慮深いお父さんなんです。タケシは、家族にも学校にもご近所さんにも恵まれている子どもとして描かれています。
絵空事ではない「タケシのせかい」、生まれてきたことを喜び合える世界はきっと実現できるはずです。大事なものは、みんなそれぞれがちゃんと持っているのですから。
室井滋 文 長谷川義史 絵 アリス館 1,650円 (2024年 ’令和6年’ 6月23日 314回 杉原由美子)