からすたろう

 これはカラスの本ではありません。「ちび」とか「うすのろ」「とんま」と呼ばれていた一人の少年が、あるできごとの後、敬愛の念を込めてつけてもらったニックネームが「からすたろう」なのです。
 少年は、学校では何もしゃべらないし、友だちもいません。それでも、遠くの村から、長い長いみちのりを一日も休むことなく歩いて登校しています。
 6年生になって、若い男の先生が担任になります。するとこの先生は、少年が動植物をよく知っていることや個性豊かな絵や字が書けることに気づきます。その中でも、少年の持つ感動的な特技を学芸会で発表することに決めたのでした。その特技とは……。
 作者のやしまたろうは、鹿児島県の農村で生まれました。東京美術学校(現東京芸術大学)に入りながら、時代に逆らう生き方をして退学。この絵本も初めアメリカで出版されて高い評価を受け、20年余りたって日本語訳が出ました。
 実在した寡黙な少年と愛情深い先生のお話です。何もつけ加えることはありません。一度読んだら、忘れ難い本になるでしょう。

やしまたろう 文・絵 偕成社 1,800円  (2002年 ’平成14年’ 4月1日 59回 杉原由美子)

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