ばらのことり

 作者は広島県在住の30歳になったばかりの女性です。一昨年、出版社が公募した絵本コンクールに応募、高い評価を得て、今月出版されたのがこの作品です。
 ふしぎなタイトルだなと思いながら表紙をめくり、冒頭のせりふで早くも引き込まれました。 「ママはばらがすきだったなあ」という、主人公のお父さんのことばです。「お母さんはどうしちゃったんだろう」と心配している読者に、直接の答は与えられません。しかし、主人公のふうこの母親がこの1年のうちに亡くなっていることが、描き込まれた絵をたどっていくことで了解させられます。
 巣から落ちて、ばらの花に受け止められていた小鳥のひなを、懸命に介抱する2人、そのかいがあって、ひなは自力で飛べるようになります。ふうこは小鳥を返す決心をし、「ママのところにいってこい!」と言いながら、空に放してやるのでした。
 なんとも素っ気ないタイトルと文、小学生の図画のような絵、でもそこから、じんわりと温かいものが伝わってくるのです。よその家庭をたずねたとき、「うちとは違う居心地の良さ」を感じてしまって、うしろめたい気になったことはありませんか? どの家にもそれぞれの苦労や悲しみがあるのに、一生懸命生きる気持ちが、他人には温かく感じられるのです。この絵本のふうこの家もまた、そんな家でした。

よこみちけいこ 作 福音館書店 390円  (2003年 ’平成15年’ 5月26日 76回 杉原由美子)

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